
ストーリー
とある町の、大きな傘工場の経営者夫人シュザンヌは、メイドもいる専業主婦。子育ても終わり、ポエムづくりとジョギングが日課。家事も仕事もしなくて良い、と夫に言われる“お飾りの妻”となっていました。しかし彼女は“お飾り”ではなく、素晴らしい実力を持った女性だったのです。シュザンヌは子育ても終わり、優雅な日々を送るが、退屈な日々を送っている社長夫人である。社会の中に自分の居場所はなく、家庭でも母としての位置は、愛されるママでしかない。夫のロベールは仕事最優先、シュザンヌの事など見向きもしない。彼は、秘書のナデージュを愛人にしていた。娘のジョエルは結婚し、夫を父の傘工場に勤めさせている。息子のローランは、芸術家を夢見てパリ暮らし。しかし、びっくりするニュースを持って実家に帰ってきた。そんな時、独善的で典型的なブルジョア社長ロベールに反発する労働者が、横暴な経営を改善しろ、とストライキに入ってしまう。ロベールは、事態を収拾するどころか、悪化させ工場に軟禁状態になってしまうこの窮地をシュザンヌは、かつての恋人で今は共産党員の市長であるババンに、助けて貰おうと相談する。ババンの協力もあり、創業者の娘としてシュザンヌは組合との交渉に成功する。そして夫は軟禁から解放されるが心臓発作を起こしてしまう。夫のロベールに代わり、彼女シュザンヌが社長に就任するが・・・。
作、演出、出演
作 :バリエ&グレディ 翻訳:佐藤康
演出:鵜山 仁
出演:賀来千賀子、永島敏行、井上純一、遠野なぎこ 他
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(193回例会)
開催:2021年1月27日18:30開演、1月28日13:00開演
会場:町田市民ホール
作品概要
フランスには、大人のコメディが豊富にありますが、その中の隠れた一作が、バリエ&グレディの「Potiche ポティッシュ」でした。1980年にパリで上演され、物語は70年代後半の、地方の傘製造会社の、社長夫人の変貌をコミカルに描いています。パリでは再演もあり、90年代の末に、映画監督フランソワ・オゾンも舞台を見ています。そして2010年、彼はこの舞台を映画化することにしたのです。この舞台原作の映画化という手法は、彼にとってロベール・トマの「8人の女たち」に続く形式です。2011年には日本公開もされ、舞台を見ずして私たちは、この「しあわせの雨傘」という作品を知る事になります。原案のバリエ&グレディはNLTでは、数作品を上演しタッチは知っていましたが、舞台版はどのような物語だったのか。急遽原本を取り寄せ、翻訳をすると、内容は映画とほぼ同じ展開。最後に映画では選挙に立候補するという場面が付け加えられていますが、主なストーリーは映画と同じ、いや、映画は舞台と同じだったのです。これは、オゾンも語っていますが、この作品は「社会の中に自分の居場所を探す女性」を描いています。作品は70年代の世情ですが、現在も変わらない、女性と社会の関係がそこにはあります。時代が変わっても、関係が変わらない状況にオゾンは注目しましたが、日本でも全く変わりはありません。この作品は多くの女性、そして女性を尊敬する男性に是非ご覧頂きたいと企画しました。しかし、あくまでもコメディです。笑いの中の批判をお楽しみ下さい。

『しあわせの雨傘』のオモシロさ 演出・鵜山仁
女性の社会進出とか、雇用の機会均等とか、世間でもてはやされている平等化、平準化のうねりは、ある意味で、我々の差別意識の根強さを逆証明しているのではないかと思います。『しあわせの雨傘』の女主人公、シュザンヌの痛快な大活躍を喜ぶ我々は、裏目読みをすれば、つまりは弱いものイジメ、差別が大好きなのですね。
しかし考えてみると、人生を、そして芝居を面白くしているのは、やはり人それぞれの多様性のぶつかり合い、あえて言えば差別被差別のエネルギーではないでしょうか。
人間の生命力の根拠は、実は女性にしろ、子供にしろ、老人にしろ、社会的弱者が自らの弱点をてこにして、強者に立ち向かう、そのヴァイタリティーにある。
実はこのあたりが、これからの世界を、我々の未来を考える上で、重要なカギになるのかもしれない、と考えているのですが…