ストーリー

亡き祖父の友人・奥平(佐藤文雄)の屋敷の隅っこにある小さな離れに暮らす平原(早坂聡美)。人づきあいを避け、ヒノキの盆栽(??)だけを相手につつましく日々を送っていたが、ある夏の夜、花火のもらい火から起きたボヤで焼けだされてしまい、修理の間、母屋で仮住まいをすることに。慣れない共同生活にとまどいを隠せない平原だったが、さらにこの家には、認知症のすすんでいる主人の奥平とお手伝いさんの他にも、なにやら住人がいるようで・・・?

作品概要

お盆に花火や爆竹を打ち鳴らし、賑やかに冥土からご先祖様を迎え入れ送る長崎の風習をヒントに描いている。とあるお盆の不思議な時間の中、ゆっくりと人間の関係を修復していく、ちょっと切なくて心温まる三日間の物語。作品のテーマは、生かされていることのありがたさや、人と伝達し合うことの喜びです。

作・演出・出演

作:小川未玲
台本・演出:松本祐子
出演:佐藤文雄、長谷川由里、館野元彦、竹内奈緒子他
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(197回例会)
開催:2021年9月1日18時30分開演、9月2日13時開演
会場:町田市民ホール

観劇レビュー

越前葵

「あなたもきっと、大切な人を思い出して涙する。」
本作の舞台となるのは、8月のお盆。亡き祖父の形見であるヒノキの盆栽に日々語りかけながら過ごす少女(早坂聡美)が、ある日の夜、花火のもらい火からおきたボヤで焼け出されてしまい、その修理の間、とある家族の元で過ごすことになります。
しかし、その家の主人(佐藤文雄)は認知症。お手伝いさん(竹内奈緒子)の名前、馴染みの植木屋の青年(亀岡幸大)のこと、自分の息子(館野元彦)さえも、わからない。この認知症の主人の言動に振り回される人々の賑やかなやりとりが、テンポ良く展開されて行きます。お盆は、先祖や亡くなった人の魂が帰ってくる時期と言われています。
本作でも、盆栽を大切にする少女の祖父(山形敏之)、認知症の主人の妻(長谷川由里)と可愛がっていた愛犬(向暁子)が帰ってきます。この、帰ってきた魂の姿が見えてしまう人と見えない人の言動のすれ違いや、見えない人々に気が付いてもらおうとする魂達の必死さがコミカルで面白くて、クスクスと劇場から笑いが聞こえてくる場面がいくつもありました。しかし、見える人は、見えない人達から「からかうな」と言われ、「認知症の主人に合わせているだけだ」とも言われてしまう。実際、自分が見える側と見えない側、どちらかの立場に立ったら・・・と考えながら観ていたのですが、体験したことの無いくせに、きっと彼らと同じことを言って、同じ事をするだろうなと各登場人物達に共感してしまうのがとても不思議な感覚でした。そして、今回のお話に感情移入しやすい理由としては、舞台上に建てられた木造のセットが、どこか昔懐かしく、ぬくもりを感じるからというのも関係しているように思います。木造のセットに机とイスくらいしか登場しないのですが、心なしか他の家具も見えるような、きっと庭には大きな木があって、亡くなった愛犬の犬小屋はまだあるのだろうな、とかそんなことを想像してしまいました。(観劇された皆様に、どんな家が見えたか聞いて回りたいくらいです・・・笑)「お盆は楽しい。一人じゃないって気がする」劇中で、植木屋の青年が言う台詞です。凄く、素敵な言葉だなと思いました。
目には見えないけれど、自分の側でそっと寄り添って見守ってくれている誰かがきっといる。その存在を感じようとすることを、もっと大切にしたい。そう、思わされました。
加えて、絶対自分のせいなのに、テストの点数が悪くて仏壇に向かって怒っていた過去の自分を思い出して、後悔しました。ご先祖の皆様、この場を借りて本当にごめんなさい。(私情を挟みました、失礼いたしました。)とにかく、今年のお盆はもっと、帰ってきてくださっているであろう魂達の存在を感じて、直接言葉は交わせなくても、感謝の気持ちを持ってお迎えしたいなと強く思わせてくれる、温かいお話でした。あなたがお盆に帰ってきて欲しい大切な人は、誰ですか・・・?」
その人はきっと、今日もあなたを空から見守っていて、今年もまた、お盆の日に会いに来るための準備をしているかもしれません。上演時間1時間40分。短いようで、とても濃密な時間でした。
ラストシーン、ここまで多くの物語を観てきたからこそ、じわじわ、うるうると感動すること間違いなしです。

劇団銅鑼(げきだんどら)

劇団銅鑼(げきだんどら)は、1972年(昭和47年)8月26日に結成された日本の新劇団。現在の代表は横手寿男。1971年に起こった劇団民藝の内部対立で、さらに民主的な運営を志向して民藝を退団した若手のうち、鈴木瑞穂、森幹太らが中心になって結成した。鈴木は劇団結成から10年間代表を務めた。「平和」「人間愛」「本当に人間らしく生きることとは何か」をテーマに活動を続けている。国内だけなく、ポーランドやアメリカなどで海外公演も行なっている。現在の事務所、稽古場は東京都板橋区にあり、第1回公演はアーサー・ミラー作『二つの月曜日の思い出』。千葉県にある労協若者自立塾のカリキュラムの一環として、演劇ワークショップに協力している。