「罠」 (俳優座劇場プロデュース)

ストーリー

アルプス山脈が一望できるリゾート地、シャモニー郊外。新妻のエリザベートが旅先の山荘から失踪してしまう。警察の捜査でも手がかりは無く、憔悴する夫のダニエル。数日後、近隣の神父がエリザベートを連れ帰るのだが、それは会ったこともない女だった……。
正体不明の神父とエリザベート、混乱する警部、追い込まれていくダニエル。果たして真実は誰が語っているのか!?
山荘という密室で、すべての者がだまし絵の中に迷い込み「罠」にかかります。

作・演出・出演

作:ロベール・トマ 
演出:松本祐子
翻訳:小田島恒志、小田島則子
出演:石母田史朗、加藤忍、西山聖了、清水明彦、里村孝雄、上原奈美

◆ロベール・トマ

(Robert Thomas, 1927年9月28日 ギャップ – 1989年1月3日 パリ) フランスの劇作家、脚本家、映画監督である。種々の喜劇・ドラマを書いた。その作品では、パリのBouffes-Parisiens劇場で上演された『Piège pour un homme seul』(罠、1960年)や2002年の映画『8人の女たち』(フランソワ・オゾン監督)の原作となった同名戯曲が知られる。心筋梗塞で死去した。


(201回例会)
2022年5月25日(水)18時30分開演/ 26日(木)13時00分開演
会場:川崎市麻生市民館


☆ようこそ『罠』の世界へ 演出松本祐子

この『罠』の初演は2018年の春でした。3年の月日というのはついこの間のように思えるのですが、世界は大きく変わってしましました。まさに一寸先は闇、なにが待ち受けているかわからないのが人生なのだなぁとつくづく思わされます。そう人生は謎だらけ、だからサスペンス物はひとの心を惹き付けてやまないのでしょうね。
サスペンス物を読んでいて楽しいのは、謎を解きたいという欲望に引っ張られてぐいぐいと先を読み進めていけることでしょう。もともとせっかちな性格の私は途中でやめることが出来なくてものすごい勢いで読み進めていきます。そして最後の一行に到達した時、作家の張り巡らした罠をもう一度確認したくなって、すぐにまた読みたくなります。二回目は周到に散りばめられたヒントを拾って、ああ、ここにこんなことが書いてあるぞとか、結末を知った後で読むと真逆の意味に聞こえてくる登場人物の言葉を味わいます。三回目はサスペンスそのものの筋立てより、登場人物の心の変化、彼らの服装や食べているもの、生活している場所など、細々とした描写を楽しんで読みます。そうして味わいつくされた本は本棚へ収められます。最近ではピエール・ルメートルの作品たちがそんなふうに扱われました。
しかし私たち演劇人にとって何よりも繰り返し読むのが戯曲です。サスペンスタッチの作品にしろ、恋愛ものにしろ、戯曲は人間の心の在り様と社会と人間の摩擦を扱っているので、多くの謎が読み解かれるのを待っているのです。そこに書かれていることはもちろん、行間にある謎を見つけて、なんでこんなことを言ってるんだろうねとか、この言葉は実は違う意味があるんじゃないのとか、ああだこうだ吟味されて味わい尽くされ、咀嚼され、そしてそれが俳優の肉体と精神、スタッフたちのアイデアと交わりあって表現が出来上がります。そしてその表現は舞台という空間を与えられ多くの人に向かって供給されます。演劇は人間という大いなる謎に興味を持つことを私たちに促します。様々な価値観や経験を持った人たちがひとつの場所に集まって、舞台の上で繰り広げられる他者の人生や価値観を共有します。そうやって私たちの知的好奇心を満たし、他者に対する想像力を少し広げてくれるのです。閉塞感が世界を覆い、人が集うことに臆病になってしまう今だからこそ、演劇が人の心を広げるお手伝いが出来たらなぁと願っています。シャモニーの山荘で繰り広げられるこの『罠』の世界に皆様をお連れして、誰が嘘を言っているのだろうと謎解きをしながら、そこに蠢く人間たちの心模様も想像していただけたら嬉しいです。さあ開演です!皆様の好奇心の扉を開けにまいります!

【俳優座劇場について】

1944年、青山杉作、千田是也、東野英治郎、小沢栄太郎、東山千栄子、岸輝子ら10人の同人で劇団俳優座は結成されました。当時の新劇公演は三越劇場で多く上演されていましたが、デパート経営上の都合により夜間興業の中止を決定。これに対して俳優座のメンバーは、自分たちが自由に使える劇場を創ろうと、創立10周年の記念事業として劇場の建設を計画します。
座員は演劇公演を縮小して映画に出演し、その出演料の70%を建設資金の株式購入に充てました。1954年4月に完成、客席数は400席。1980年9月、劇場の老朽化に伴い、9階建ての俳優座ビルを建設し、客席数300席の現・俳優座劇場に建て替えます。
翌1981年に、倉林誠一郎が代表取締役に就任。これを機に新しい劇場の性格創りを目指して、独自の企画公演である、俳優座劇場プロデュース公演が始まりました。